人が住んでいる

寝静まる前の

遅い夕飯を作る音

そのほかに何も

細長い国道に車はない

おばあちゃんが電動自転車で

きつい坂を電灯も点けずに登り

シャッターの降りない暗い金物屋の二階には

まだ白熱灯が窓を照らす

点々と街灯

薄い星あかりと消えた月

瞬く自転車のライトが

シャッターを切り続け

焼き付かせる

この無音

その中の音

一瞬の暗闇とまた次の照明

たまにぶつかって虫が落ちてくるらしい

声はしないが何か飛んでいる

どんな町だかわからない

道はほとんど眠りに入り

たまに生き物が通っても

凍ったように動かない

だが歩道の両端から冷たい誰かの体温が

じわじわと伝わってくるようだ

人が住んでいる

人が住んでいる

死んだように生きている

人が住んでいる

知らない人ならどこでもそうだが

やはり恐ろしく

きっと優しく

人が住んでいる

この町の道を

住んでない僕が走るのが

降る雨のような

吹く風のような

夏のはかなく短い命が

知らず知らずに駆け抜けていくような

蝉がなきはじめた

馴染みの蝉が