夏のしじまに

嘘のように人のいない真夜中

雨上がりに病み上がり

まだ病人の匂いがする

鼻がいかれて

 

犬が駆け寄ってきた

死にかけた人間は野蛮な味がする

猫のように無表情

みんなでストンと底に座った

 

蝉は黙る

涼しさと水気に

木々は萌える

今夜だけ空広く

 

雲間に光る星が風に流されて消えてゆく

木星土星を往復し

無責任に観測点をずらし続ける

 

この夜は誰のものだ

近鉄の帽子かぶった自転車のじじい

お前にやるよ

神様はそんなところ

あとはこっちでやればいい

 

力なく振り出す足の先が気まぐれに石を飛び

浅瀬に入り

新たなる音を付け加えてゆく

完璧だった人生を狂わせる重篤な病

明日のすべては今日次第

今日のすべては夜次第