写真

貯金してカメラを買って

あの娘に声をかけた

何十万円のカメラが君のこと

すごく綺麗に撮ってくれるから

どう?

ズームの音が彼女の高き

プライドと好奇心を刺激した

木漏れ日を肩にのせ

ベンチで嘆息する表情を

撮って

おびただしい時間と手間ひまをかけ

古めかしく引きのばされた白黒の写真は

たしかに美しく

それはたった何十万円のカメラによって生み出されたが

しかし何千万円の絵画のような

かけがえのないまばゆさがあった

ふと僕はこの奇蹟に名前と

値段をつけてみたくなった

何枚かの美しすぎる作品を額に入れ

タイトルをつけて

いろんな人に見せてまわった

お世話になった先生や

飲み屋で知り合った編集の人

写真の師匠とあおぐ人

いい企業に就職した昔の友だち

彼らはもちろん口を揃えて

「きれいだ」と言い

なかには具体的な値段さえ口にして

買い取ろうかという人もあった

(それはある雑誌社の勤め人だった)

美しさは高騰し

作品は一人歩きを始めた

彼女は芸術となり

商品となり

また広告にもなった

そのような女性は何万人といて

彼女は今でも生きている