死刑台の教祖

105.死刑台の教祖 返信 引用

名前:ジャッキー 日付:2004/7/25(日) 2:2

幼少の頃

貧乏だった我が家には

サンタクロースが来なかった

一人っ子の僕は

毎年毎年 泣いていた

それはある年の

あるクリスマスの夜だった

堅く閉じていた瞼の その裏側に

あのサンタクロースがやってきたのだった

噂に聞いたサンタクロース

僕は初めてその姿を目にしたのだ

それからというもの

僕はサンタクロースのあの時の姿を

いつでも心に思い描いた

そうして生きていた

テレビやマンガで見るサンタクロースは

本当のサンタクロースじゃない

友達が楽しそうに語る

黒板に描かれるサンタクロースの姿は

本当のサンタクロースの 姿じゃないのだった

サンタクロースには ハネが生えていた

サンタクロースには しっぽがあった

サンタクロースは 黒かった

サンタクロースには ウデがたくさんあって

その額には神秘的な

第三の目がひらかれてあるのであった

そしてある年の

あるクリスマスの夜だった

堅く閉じていた瞼の その向こう側で

小さな囁きが僕の鼓膜をノックするのだった

「こんばんわ 私はアイアム サンタクロース」

あのサンタクロースが

本当にやってきたのだった

僕は目を開けて その姿を見たいと思った

いつも思い描いていた

あのサンタクロースの姿を

今度こそ本物の この瞳の中に焼き付けてしまいたいと願ったのだ

しかしサンタクロースは

けして目を開けてはならないと僕を戒めた

僕は従った なぜならサンタクロースは絶対なのだ

そしてサンタクロースは僕にプレゼントをあげるよと言った

だがしかし

サンタクロースはプレゼントを忘れてきてしまったといった

「すまないけどソーリー 遠くの島まで取りに帰らなければいけない」

サンタクロースはそのとき

寂しく笑ったにちがいなかった

「いつ戻ってくるの」

そう僕はたずねた

「そうだね」

サンタクロースは答えた

「20年後くらいになるだろう」

サンタクロースはそのとき

さっきよりももっと

もっともっと寂しく 静かに笑ったにちがいなかった

それ以来サンタクロースは現れなかった

瞼の中にも

瞼の外にも

僕の脳裏のその中にだけ

サンタクロースは生き続けていたのであった

サンタクロースには ハネが生えていた

サンタクロースには しっぽがあった

サンタクロースは 黒かった

サンタクロースには ウデがたくさんあって

その額には

その額には神秘的な

第三の目がひらかれてあるのであった

そればかりか

サンタクロースには 漆黒のツバサもあった

サンタクロースの髪の毛は ひとつ残らずヘビだった

サンタクロースは常に 地獄の業火に取り巻かれていた

サンタクロースは 何者をも凍り付かせてしまう

サンタクロースは

サンタクロースは

サンタクロースは

なによりもサンタクロースとは 絶対普遍の超越的存在なのだ

そして僕は20年間待った

そして僕は20年間待ち続けた

そして僕は20年間も待った

そして僕は20年間も待ち続けたのだ

待ち続けたのだ

その20年間の間に

僕は宗教団体を立ち上げ

本物のサンタクロースを世に知らしめようとした

どうしても

どうしても

どうしても僕は本当のサンタクロースを知ってもらいたかったのだ

しかし世の中は冷たかった

僕は牢獄に入れられた

毎晩毎晩祈っていた

そしてある年の いや

あれから20年目の クリスマスの日だった

堅く閉じられた瞼の内側に

大衆的な深紅の衣裳を纏ったあのサンタクロースの姿が

浮かんできたのだ

そしてサンタクロースは言う

「すまかった、今まで本当にすまなかった」

裁判で父親は全てを告白した

そして僕は 本当はそれを知っていた

僕は全てを知っていた

しかし 確かにあの夜

父親は僕の部屋で

「私はサンタクロースだ」と告白したのだ

僕はそれを信じた なぜなら父親は絶対なのだ

なぜなら父親は絶対なのだ

僕は何よりもその言葉を信じていた

なぜならば父親は絶対なのだ

絶対普遍の超越的存在なのであった

僕は極刑に処せられた

「父よ どうしてあなたは僕を見捨てられた」

その声は虚しく

足元の奈落に響き渡った

(「閑古鳥の止まり木」文藝BBSより)