旅情

かつて、かつて

路傍の憂い、

愛の飛ぶところ

 

旅をすべしや

すまじや波瀾

急流に呑まれ白痴となって

陽射しの陰で眠るころ

 

えい音の下

狩衣を濡らすチイと風

松の葉の先に雫がひとつ

 

恋を忘れて青空へ

蜜柑の香りがのぼり立つ

ひらけた山道

あの風景が何枚も貼りついて

終わりのないツヅラオリ

 

がらんどう

つめたい胸に

つめたいランプが火をともす

小さい線に離れ出て

壁にぶつかる火花たち

 

血は流れている

岩のような寒さの中で

氷と雪に

温もりのために