自伝

自分が

何者なのかを探していた

迷うたび愛したり

愛されたりしてた

夜の河原の

ベンチに座って

考えることもないのに

格好つけてた

何もわからないから

すべてを知ろうとしてきた

何か一つでもはじめからわかることが

あったらよかったな

すべてを信じてしまうから

傷ついていた

すべてを疑う事を

憧れにしてきた

河原の丸い小石を

意味あるものとして

少しでも何かそこから

感じようとしてた

集合住宅の一室に生まれ

毎日学校と川を見下ろして暮らした

寝転んで見上げる家は

あまりに大きく

堤防を走る道路が

世界を分けていた

向こう岸に見える家は

こちら側とは違って

何か違って輝きもせず

静かに生きていた

何も知らないから

草花も虫も鳥も見落として

ただ何かを求めてずっと

川にいることを愛してた

そして文化と出会って

新しいことを知れば知るほど

古いこととわかった

それが楽しかっただけ

新しいことを知れば知るほど

古いこととわかって

古いことを知れば知るほど

涙があふれた

遠く遠くベランダから見える

夜の光るテレビ塔

北には川があり山が並び

南にはビルが建っていた

そして僕が選べたのは

あの川の流れる先だけだった

赤い三階橋

水色の天神橋

緑の矢田橋

そのずっと先の千代田橋

さらにその先へ流れていって

家族と離れて

身軽になって

ついに自分を見失った

生きるために封じ込めたものが腐っていくのを感じる

泣かないように噛みしめた奥歯が欠けていくように

太陽の光をかき集め

星に光を返してやりたい

そう願うたび涙を流し

負債の精算に充てていた

さわやかな笑顔の嘘を暴き

死んで穏やかに終わらせたい

泣きもせず一日ゆるやかに

消えてしまえと祈り続けた

今でも祈り続けながら

愛したり愛されたりしている

もう一歩で目の前が開く

祈りすぎて痛んだ膝を慰めてくれる君たちがいる

神様を信じていないから

祈ることにすがりついた

神様を信じはじめれば

生きようという気にもなるのに

本当に何かに祈るなら

膝を痛めるような愚かな格好はしない

ベンチに寝ている方がましだろう

時には誰かと話をしながら

今でも会えば川に行く友達がいる

それはとっても幸せなことだ

僕らは河原に寝転がり

互いに妻子の話をするのだ

自分が何者なのかは未だにわからない

何一つもわからない

達成はない

しかし

ここで「しかし」という一言を入れることが

もう少しだけ練習したらできそうだ

その練習の一環として

長い自伝を書いている

書き継ぎ書き重ね

真っ黒になるまで書いてみる