網膜が狂おしいような暗闇のなかに
煌々と胡蝶蘭が立っている
茶をいれている老女と
曇り空に桜
時は春
だが暗闇で見えない
汗が乳房を伝い落ちている
さりさりと毛を撫でて落下する
望んだ心はもう
形もないのを知っているからだろうか
脂が背中にぐるりとはりつき
溶けていく脳を
脊椎側から飲み込み流れる
胡蝶蘭の先で湯のざわつく音がする
だれも切り裂かない空間の暗闇と 溶かす汗の
白き布団に落ちる音
さりさりという
温かのものの
身体をきりさばく
雨のようなものの
闇で見えない姿
首を折り曲げようとする
湯気で声にならないかなしび
とおわとおわ
純粋なこわさとよろこびにない
つめたい汗の
白き布団を黒く染みていく音
さりさりという
四月