住宅

集合住宅の四階の

玄関を開けて広がる景色は

川が流れて

線路と橋とガスタンク

遠くに山々が霞んで並び

空が太陽を待っている

世界でいちばん愛してる

集合住宅のベランダの

手摺りに寄り掛かり眺める世界は

コンクリートの公園と

遠くにビル群とテレビ塔

友達の家の扉が見えて

小学校がたっている

世間がことごとくここにある

東から朝陽は山際に昇り

川面と芝生に光を差し込む

西には夕陽が団地に沈んで

夜がくるのを急がせる

帰ってくるたびに確認している

僕の生まれた世界のことを

変わっていくものと変わりはしないもの

いつか死んでいくお父さん

お母さん

ここから見えるのは忘れられないもの

ここにあるものは何だろう

夢を見ている老夫婦

孫の写真

印鑑とメモ

僕の生きていた数々の証拠

いま僕の座っている場所

明日には彼らがお茶を飲む場所

これは僕が

削り取ってしまった

空間だ

明日には発ちますが

また帰ります

ここから淋しさを追い出すために

ここからもう一度始まりたいです