寶くじは買はない

失はれてしまつたものは

二度とかへつてはこないのだ

だつてそれは

失つてしまつたのだから

自轉車で來てゐてよかつた

無一文でどこまでも歸れる

一錢も持たなければ

使はなければ道は限りなく永遠である

メトロ通りにやつと目を細め

星を一つ知る

朱色の鳥居を通りすぎる

交差點に名前がついてゐる

人と車が針となり

意匠の絲をみちびいて

町は時間をみにまとう

信號待ち

白い息を見て

わたしは夏を考へた

戀人を想ふ

ともだちのことを思ふ

彼らと話をしてみる

もしくは再現する

家につくと

冗談で文通を始めた相手から封書が屆いた

配達のミルクをのむ

あるいはいつも通りだつた

きのふ財布を落とした

それなのに

こんなにもわたしは持つてゐる

失つて初めてわかるといふのは

ほんらいこのやうなことを言つたのだらう