欄干とボール

沈み込みながら頭に浮かぶのは

いつも決まった空気である

雰囲気というのか

夜中の乾いたコンクリートとか

何らかの水

地下鉄の壁から漏れる錆びた水だったり

川の水だったり

 

ギターの弾き語りもできるだけ

遠くで鳴ってるようなのだ

 

たくさんの豆電球が

色も決めずに

埋め尽くす

パチンコ玉が

あふれてくる 津波のように

押し寄せる

 

突き抜けるためには一丸とならねば

波は並である

フラダンス

そこに乗るサーフィン

飽きるべきである

 

圧倒的な槍を

大きく息を吸い込んで

うーんそれは手のひらでちいさな鞠を

コロコロ

平たい手すりに転がすように

どこまでも行きたくてまた戻る

飛ばせるが笑う

追いかけてもそれはそれで良い

過去になる

 

猫が体を伸ばすように

時間はそれだけ柔軟だ

目を閉じなくても浮かんでくるのは

乾いたコンクリートと水

決してそうでないこと

諦めないでいる

新しく始めるよりも

あの一手

お茶と魔法

退屈だと思って生きているのに

大きな魚が泳ぐ川のように

週末の

 

魔法

 

お茶をいれます

 

何がって

僕とは君のこと

立つ湯気はからっぽ

 

心の中のすべての記憶の

最もよい部分だけが

そこであつまって絡まって

一人の人間になっているようなこと

だから僕とは君のこと

 

永遠に減りそうもない湯飲みのお茶が

孤独そのもののように

美しさを引き立てて

ほんとうに

さみしい

 

週末

酔っては醒める

解ける魔法を見送る日

儚い君とは僕のこと

おとなしい愛

深い発熱

キリストのこと

愛するべきか

忘れるならば

偉大なる誰かと僕の思い出は

たぶん永遠にくり返されてゆく

 

夜のうちに

星は輝き終わって

広がる空がほしいまま

駅に向かう二人をとても小さく見せる

 

石はアスファルト

猫は前方に

公園は背景に

何もしなくても絶対に

 

酔うのは人の心でなくて

若い時代の記憶であって

酩酊するのは歴史のかけら

指先が震え

積めないピラミッド

いつかいつか

すっきりと風化して

三角になる

 

すらりと長く

美しい僕の身体を褒めて

 

おとなしい愛に

確かな不安

終わるとしたらきっと明日

あの味をそっと思いだすとき

火花と銅線

フライパンのように焼けこげたらしい新しい町で

生き生きと働いている人たち 流れる汗を拭きもせず

ひとつ前の戦争に勝利しようとしてる

 

すきまのない焼夷弾 逃げても無駄とわかってる

冷たい水があればみんな目を覚ますだろうか?

 

想い出を焚き木にして燃えさかる 新しい気持ち

何もかも忘れ去った人たち 流れる時の風を切り

ひとつ前の恋愛を実らせようとしてる

 

繰り返される幸福 意識がすっと遠ざかる

冷たい顔を見れば君は目を覚ますだろうか?

 

ひとつ前の人生をなぞり

恋をして

同じ神の声を何度でも聴こうとするけど

紫陽花の美しさとか

蟻の巣の深さとか

すべて異なる神の仕業なら?

 

永遠に同じ身の上に

積み重なっていく手触りは

猫の毛をなでるように

赤子の頬をなでるように

優しく生をなぞってくれる

輪郭線がつらなっていく

配線のようにつながっていく

子どもの匂いのする場所で

マスキングテープをはがすと

僕にあたらしい 君にかつての

想いがひらく

夕方に封をして 夜にひやされて

太陽で目を覚ます

 

閉じるための虹色にこめられた気持ち

爪は何色だったろう?

 

どんな言葉にも音があり

はじけてぶつかる

どんな贈り物にも色があるように

どんな心にも事情があって

賑やかにしたり

静かにしたり

 

火をとめて 散る熱が運ぶ香り

報せられて知ること

愛されて笑うこと

望むなら その匂いのある場所へ

 

大切なシールをはがすと

僕にあたらしい 君にかつての

時間がひらく

歩くならその声のするほうへ

 

子どもの匂いのある場所へ

酔う(あるいは麝香)

人がゆえ酔う

生きるから酔う

酔いに涙して

酔いに強くなる

 

いつか覚める酔いなら良いが

覚めぬまま腐る酔いもある

 

あなたが歩くその道は美しいか

酔いながら歩くその道は輝いているか

そんな質問にあなたは言う

「酔ってなんかいないわよ」

 

腐った酔いを身にまとい

あなたは言う

「この香り!」

あなたはそのまま倒れ込む

「わたしは酔った!」

「酔っている!」

そして笑うのだが

違う あなたは狂ってしまったのだ

 

人がゆえ酔う

それはいい

狂えば獣だ

覚めぬまま腐る酔いの中であなたは

いつの間にか獣の香りを身につけていく

それを麝香という

愛という部屋

どんな速度でも
どんな温度でも
愛という部屋で遊べますように

走るときも休むときも
同じポーズでいられるように
たのしいときもさみしいときも
同じ笑顔でいられるように

酔っているとき
その瞬間は爆発のように
好きという気持ちが溢れ出す
覚めたらどうなる?

シャボンが浮かんで飛ぶように
場面の光は揺らめいて往く
桜の花が散るように
美しく果てる

眺めているのが子供の役目なら
僕たち大人はなにをしたらいい?

遠く離れた恋人が僕のことを想う
愛しさが舞い降りる
これはどこからきたのかな
今からどこにいくのかな
どうしたらこれを
抱きしめられるの?

超空間の
愛という部屋は
目を閉じなくてもいつでもあって
移ろいながら続いていく
空っぽになっても唄い続ける
どんな事情でもそこで遊びたい
そしたら誰かが理解できるの?

それじゃまたあとで

うんそれでいいんだ。とても幸せだから。本当に包まれて僕はじつに心地がいい。嘘たちは困ったようにあたりを飛びはねている。

もうだいたいの機能は終わってる。だからゆっくりと閉じていくんだ。愛しているってそういうことだよ。

はじめとおわりをつかんでまぜよう。
順番なんざどうだっていい。
天の川のようにきらめいている。
それでいいんだね。
うんそれでいい。

(無題)

このところ週に2回くらい動悸と涙が止まらなくなる。

それ以外は死なないために浮かれている。

今頃は天に召されているのだろうか。

もう、急にやってくる。

わたしのものにはならないのだ。

数ヶ月か数年かのその永遠にわたしは狭間で苦しむだけなのだ。

鳥籠の中でうたいながら朽ちていくのだ。

浮かれながら。でも飛べないで。

誰も悪くないのはわかっているし、すべてが誰かの我儘でしかない。

わたしたちはカラフルな世界の中でたまたま色を背負うのである。ルーレットのようにそれは時折きめられる。

わたしはいま何色だろうか。灰色かうすい水色だ。まるでかわいた泥のようだ。

あなたは?

それがわかれば苦労はしない。

今頃は天に召されているのだ。

わたしは砂漠の真ん中でただ一人孤独に、目に見えない行列のずいぶん後ろの方に立たされている。

なにもわからない。それで週に2回くらいは、動悸が、涙が、止まらなくなる。

ゆっくり歩いて行くんだろうか。

このまま立ち尽くすのだろうか。

UFOが来て連れ去ってくれるか。

なにもわからないでただ、血をうねらして泣いている。とても静かに。誰もいない部屋で。すべての人類の幸せを祈って。わたしはそこに入れるのだろうか。いまだ半信半疑のままだ。

ああ、そうだ、すべての人類よ。

あなたがたはみなわたしの愛するあの人なのだ。同一のものだ。だから祝福を受けてくれ。そうでなければ、わたしはあまりにさみしいのだ。

助けてください。

この瞬間に星は砕け大陸は沈み海の水は裂けた大地にすべて呑み込まれます。

はじめは何気なくつけたろうそくの火なのです。あなたはあまりにもそれに上手に火をともした。いまでは焼き尽くす火焔となってわたしを足からあぶっています。こんな地球ではなかった。こんな土ではなかったのに。わたしは裸足で駆け回りたいのだ。

別に責めるつもりもないのです。それが宇宙というものですから。ただわたしは時折にだけ、週に2回くらいだけ、動悸と涙がとまらなくなるのです。あまりにもわたしは緑を愛しすぎました。そしてわたしたちは幸福すぎるのです。

静けさが怖い。音楽が止まってしまった。しかしうたえば死が近づく。

金縛りのようにわたしは祈り続けている。

こんなにつらいことはないのだ。

波にさらわれていく。

雨雲がやってくる。

遠くには幾つかの救急サイレンが輪唱のようにさわいでいる。

この夜は二度とない。だから恐ろしいのだ。明日にはもう、今宵は死す。

新しくもない毎日が積み重なっていく。

普通の日々が連なっていく。

わたしは永遠にこの行列の真ん中に立っているのだろうか。目に見えない行列の。そして泣き続ける。とても静かに。浮かれながら。うたいながら。やがて心臓は血によって破裂するだろう。

本当の証拠

嘘は本当を隠すけど

本当は嘘を隠せない

偽りは本当の愛も美も隠す

本当は偽りを前に

ただ見つめることしかできない

醜い嘘の向こうに真実はある

美しい本当の前に嘘は立ち並ぶ

偽りたちの嘲りの声

あなたの嘘であなたが見えない

あなたの本当はただ美しく

悲しげに嘘を見つめてる

抱き合ったことは本当

その情景も

その愛も本当

嘘はそのとき

どこにいたのか

この曇天は月を隠し

雨を呼んで真実を濡らす

あの輝ける

夜の声も掻き消していく

この手に残る美のかけら

あなたの匂い

すっと立つ味

きらめいた指

あの舌ざわり

嘘たちは笑う

本当を笑う

本当は凛と

嘘たちを見つめる

見つめられた嘘たちはその視線を

受け止めてどう思う?

祝いたくて

言葉を探すけど

すべて嘘たちの雑踏へ

祝いたくて

あなたを探すけど

本当は今も孤高

星を見上げて泣いているだけ

あの美しさをまとって

その身ひとつを信じて待ってる

愛してる

愛してる

その証人は

あの日の嘘だ

誰かが言ってた

黒点
低いとこ
ぬるいところ
僕の涙が
落ちてジュウって
溶けるとこ

誰のためでもなく
あなたのために
僕だけを反射して
あなたのために
そんないちにちを
過ごしましたか?

殺そうと
ずっとほうちょうをにぎりしめてる
よくしらないけど
泣いてしまうね

僕たちはいつも抱き合って悲しくて
二人だけになって
その外にあるあらゆるものを
見ないでいたいのかもしれない

愛し合ってる
そのこといがい
証拠はいらない
ただ

ワイングラスにひびが入って
するすると糸のように
抜けていく
そんなものかな
あなたの小指をまた咥えたい
鼻先をくすぐる
ほんのわずかな感触をもういちど
確かめたいな
もうあんなことは忘れてほしい

君の声

声がききたくて

とまどい

雪の降る日のさらさらとした

冷たい空気を思い出す

花ならいつでも摘みにいくから

君の声ならここにある

最後のためにとってある

笑顔も涙もうかばなくても

歩く気力もまるでなくても

思いだすことができなくなっても

君の声ならここにある

花ならいつでも摘みにいく

最後がくるまでとっておく

いま声がききたい

暑さのあまりおかしくなった

記録的猛暑の体温計は

吐息の熱もあげていく

ためいきを火にかえてしまう

君の声が鳴り響いて

頭を壊してしまうまで

それで歩けなくなるまで

いつまでも凍るあの空を

眺めて

死ぬまで

摘みにいく花の住所を言って

君の声じゃなくてもいいから

恋ってきっと

野球場から
放物線で
うちのポストに
文庫が届く

恋ってきっと
こういうことね

古いことばを
ひもといて
わたしを探す
あなたを探す

恋ってきっと
こういうことね
恋ってきっと
こういうことかも

散歩の途中
音がして
振り向いてみたら
球が飛んできた

恋ってきっとこういうことなの

ぐるりとまわって
むかしの涙が
いまを彩る
輝いている

恋ってきっと
こういうことね

野球場から
うちに届いた
一冊の本の
はじめの文字は

二人の経緯

咳き込んで命をなくす
その刹那さと
雪どけの拍手を混同している
肉体と精神

あなたはからだを痛めつけ
わたしはこころを傷つける
美しき張りぼてのアート

誰もが死を待ち退屈で踊る
からだでおどる
こころでおどる
炎に焼かれ剥がれ落ちて死ぬ

あなたの最期を看取るのはランプ
赤茶けた壁の花の絵の下
両手を組んで嘆かずに
醜くなって苦しんで逝く

わたしの心を殺すのは
誰も知らない秘宝の地図と
木のうろに隠す硬い泥玉
朽ち果てて
あの世に置かれ
肉体だけが生き続けていく

二人が出会い別れたわけは
天体の裏に書かれてあって
それを見に行く相談をして
新しい人の誕生に賭けた