お茶と魔法

退屈だと思って生きているのに

大きな魚が泳ぐ川のように

週末の

 

魔法

 

お茶をいれます

 

何がって

僕とは君のこと

立つ湯気はからっぽ

 

心の中のすべての記憶の

最もよい部分だけが

そこであつまって絡まって

一人の人間になっているようなこと

だから僕とは君のこと

 

永遠に減りそうもない湯飲みのお茶が

孤独そのもののように

美しさを引き立てて

ほんとうに

さみしい

 

週末

酔っては醒める

解ける魔法を見送る日

儚い君とは僕のこと

おとなしい愛

深い発熱

キリストのこと

愛するべきか

忘れるならば

偉大なる誰かと僕の思い出は

たぶん永遠にくり返されてゆく

 

夜のうちに

星は輝き終わって

広がる空がほしいまま

駅に向かう二人をとても小さく見せる

 

石はアスファルト

猫は前方に

公園は背景に

何もしなくても絶対に

 

酔うのは人の心でなくて

若い時代の記憶であって

酩酊するのは歴史のかけら

指先が震え

積めないピラミッド

いつかいつか

すっきりと風化して

三角になる

 

すらりと長く

美しい僕の身体を褒めて

 

おとなしい愛に

確かな不安

終わるとしたらきっと明日

あの味をそっと思いだすとき

火花と銅線

フライパンのように焼けこげたらしい新しい町で

生き生きと働いている人たち 流れる汗を拭きもせず

ひとつ前の戦争に勝利しようとしてる

 

すきまのない焼夷弾 逃げても無駄とわかってる

冷たい水があればみんな目を覚ますだろうか?

 

想い出を焚き木にして燃えさかる 新しい気持ち

何もかも忘れ去った人たち 流れる時の風を切り

ひとつ前の恋愛を実らせようとしてる

 

繰り返される幸福 意識がすっと遠ざかる

冷たい顔を見れば君は目を覚ますだろうか?

 

ひとつ前の人生をなぞり

恋をして

同じ神の声を何度でも聴こうとするけど

紫陽花の美しさとか

蟻の巣の深さとか

すべて異なる神の仕業なら?

 

永遠に同じ身の上に

積み重なっていく手触りは

猫の毛をなでるように

赤子の頬をなでるように

優しく生をなぞってくれる

輪郭線がつらなっていく

配線のようにつながっていく

子どもの匂いのする場所で

マスキングテープをはがすと

僕にあたらしい 君にかつての

想いがひらく

夕方に封をして 夜にひやされて

太陽で目を覚ます

 

閉じるための虹色にこめられた気持ち

爪は何色だったろう?

 

どんな言葉にも音があり

はじけてぶつかる

どんな贈り物にも色があるように

どんな心にも事情があって

賑やかにしたり

静かにしたり

 

火をとめて 散る熱が運ぶ香り

報せられて知ること

愛されて笑うこと

望むなら その匂いのある場所へ

 

大切なシールをはがすと

僕にあたらしい 君にかつての

時間がひらく

歩くならその声のするほうへ

 

子どもの匂いのある場所へ

酔う(あるいは麝香)

人がゆえ酔う

生きるから酔う

酔いに涙して

酔いに強くなる

 

いつか覚める酔いなら良いが

覚めぬまま腐る酔いもある

 

あなたが歩くその道は美しいか

酔いながら歩くその道は輝いているか

そんな質問にあなたは言う

「酔ってなんかいないわよ」

 

腐った酔いを身にまとい

あなたは言う

「この香り!」

あなたはそのまま倒れ込む

「わたしは酔った!」

「酔っている!」

そして笑うのだが

違う あなたは狂ってしまったのだ

 

人がゆえ酔う

それはいい

狂えば獣だ

覚めぬまま腐る酔いの中であなたは

いつの間にか獣の香りを身につけていく

それを麝香という